『あのスコットランドの芝居』の呪いから解放された日(加田斎)

 水曜担当、遅刻常習者の加田です。いつの間にか日曜になってしまいました。本当に毎度ごめんなさい。

 さてさて。
今回の演目『マクベス』はその内容が裏切りや謀略、暗殺シーンが満載のお芝居であることから、上演する際には、関係者に不吉な事件が起きたり、上演中に事故が起きるといわれています。実際にこれまでにも出演者やスタッフの病死や事故死、自殺などが記録されてるとか。ま、日本でいえば『四谷怪談』みたいな感じですかね。
こうしたことから、劇場で「マクベス」という作品名や主人公の名を呼ぶのは縁起がよくないので、「あのスコットランドの劇」「あのスコットランドの王様」とかいうらしいです。といっても劇中には「マクベス」という固有名詞は何度も出てくるので、あくまで「セリフ以外で」ということですが。
 翻ってみるに、今回の私たちの『マクベス』も、企画がスタートしてからいくつかのアクシデントに見舞われています。そんなわけで、この“言い伝え”が心に引っかかっていたメンバーも少なくありません。

そして、先日の金曜日に、問題の上演劇場で稽古がありました。この日は、「マクベス」という言葉を言わないようピリピリとした空気が流れていました。誰かが「マク…」と口にした途端、演出家の灰皿やら、もりんさんのイヤミやら、牛島くんの拳やらが飛んでくる殺伐とした雰囲気。みなビクビクして、セリフも思うように出てきません。ただ、登場人物には「マクダフ」やら「マルカム」やらややこしい名前も多々あるので、誤って被害を受ける者も。雑談で「この前、マックで……」としゃべった瞬間、周りから白い目で見られる始末です。みな疑心暗鬼でどんどん重苦しい稽古場になっていきました。

 そこへ入ってきたのが、仕事で遅れたとろかしさん。勘のいいとろかしさんは、稽古場の様子を見て異変を察知し、すぐに私に事情を尋ねてきました。普段は温厚そのもののとろかしさんの表情が、話を聞くうちにしだいに険くなっていくのが分かりました。そして、聞き終わるやいなや、スクッと立ち上がり、舞台の真ん中に向かっていったのです。とろかしさんは、舞台の上から、叫びました。「みな、なにを恐れている! なにを惑わされている! われわれが戦いを挑むのはこれまで上演されてきた既存の『マクベス』であって、マクベスの怨霊などではない。そんな迷信に心を支配されてしまうのは、魔女の予言に翻弄される劇中のマクベスと同じではないか! 目を覚ませ!」。その声は劇場中に響き渡りました。しかし、このとろかしさんの言葉が届かなかったメンバーも…。演助の石井くんがぼそっとつぶやきました。「そんなこと言ったって、実際にケガしたり、死んだりしたら元の子もないじゃないか」。これを耳にしたとろかしさんは、なにを思ったのか、ワイシャツを脱ぎだしたのです。上半身裸になったとろかしさんは、さっきよりもさらに力強い口調で語り出
しました。「もし、マクベスの怨霊がこの芝居に呪いをかけようとしているのなら、私がその呪いを体全部で受け止めよう。この体に封じ込め、分厚い脂肪に練り込んでやる」と。そして、とろかしさんは、高らかに笑いながらそのたくましい腹をパンッパンッとたたきました。その姿を見たわれわれは、一気に目が覚めたのです。私はいつしか泣いていました。涙をぬぐっていたのは、私だけでなかったはずです。
 演出の青柳さんは、とろかしさんに駆け寄り、とろかしさんを強く抱きしめました。われわれが実態のない恐怖から解放された瞬間でした。

 私は、この日をわすれないでしょう。
 ありがとう、とろかしさん。

 ◆本日のシェイクスピアの名言・名台詞◆

 「眼前の恐怖も想像力の生みなす恐怖ほど恐ろしくはない」

作・加田斎
代筆・天真大貴

〜天真の勝手にコメント〜
あれ?こんな事ありましたっけ?
これぞまさに、加田さんの想像力の生みなす恐怖!(笑)

『あのスコットランドの芝居』の呪いから解放された日(加田斎)」への1件のフィードバック

  1. モリソ

    ああー、たしかに演出家の灰皿はとんでましたねぇー

    俺はもう禁煙しているー!

    って(笑)

    嘘です。禁煙はほんとです。

    本当のところは
    とろかしさんがみんなの中でいつも仏様のような慈悲のこころで私達をとろかしてくれているのは本当です。
    稽古場でマクベス言いまくりですね。
    早くお祓い行かなきゃ(笑)
    災難ばかりなのはほんとっす(笑)

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