賢君・マクベス(水曜担当・加田斎)

 どうもです。締切を守れない病にかかっている水曜担当、加田です。

 今回は、『マクベス』のお話の背景について解説させていただこうと思います。

 前回も説明しましたが、マクベスの舞台はスコットランド。
スコットランドとは、現在はイギリスを構成する北部の一地域ですが、
マクベスの時代の11世紀は独立国でした。イングランドに合併されるのは1707年のことです。

そういえば、昨年、
スコットランドのイギリスからの独立を問う住民投票をめぐって世界中が大騒ぎになりましたね。
ま、あんなことがいまでも起こるくらい、イギリスの四地域(イングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズ)は独自の政治体系や文化を持っているんですね。ご存知のようにサッカーやラグビーの国際大会では、それぞれが別々に代表チームをつくって出場しています。
 ちなみに、イギリス国旗は、イングランド、スコットランド、アイルランドの3つの旗を組み合わせたもので、スコットランド(青地に白い斜線十字)とアイルランド(赤い斜線十字)を平等に扱う意味で、斜線が微妙にずらしてあります。つまり、イギリス国旗はシンメトリーではないんですね。

 さて、そのスコットランドが統一王国となるのは9世紀半ば。マクベスの舞台となる11世紀に、やっと現在の領土が確立し、「スコットランド(スコット人の国)」となったようです。
 『マクベス』の物語の中で、マクベスに暗殺される主君・ダンカン王は、1034年に王位に就くわけですが、当時の王位継承制度では、実はマクベスもその資格を持つ王族の1人でした。ダンカン王とは従兄弟の関係だったとか。
 シェイクスピアの手によって、マクベスは、謀略で王位を奪う卑劣なキャラクターとして定着しましたが、実際のマクベスは、戦争を繰り返し国を疲弊化させていたダンカン王に反旗を翻し、これを倒しました。そして1040年に国王となり、その後統治した17年間、国に平和と繁栄をもたらしたといわれています。

 ま、つまり史実が戯曲によって歪められたともいえるわけですが、そもそも歴史なんてそんなもの。そのときどきの見方によって、大きく変わったりします。
 「生類哀れみの令」を出して庶民の不満を集めたといわれる徳川綱吉も、最近は、慈愛に満ちた名君という評価に変わってきているといいますし、賄賂政治家の代名詞のようにいわれている田沼意次も、その経済政策が再評価されています。井伊直弼だって、滋賀と茨城ではまったく異なる人物像として語られていることでしょう。
 暴君か名君かは別にして、実際のマクベスも多様な面を持った人物だったのではないでしょうか。
 そして、シェイクスピアが描くマクベスも、決して単純な悪王ではありません。今回の公演では、青柳演出によって、史実とも、またこれまでのシェイクスピア悲劇とも違ったあらたなマクベスの姿が描かれることでしょう。

◆本日のシェイクスピアの名言・名台詞◆

「いいは悪いで、悪いはいい」

作・加田斎
代筆・天真大貴

~天真の勝手にコメント~
「マクベス」の登場人物はほとんど実在の人物なんですよね。
いいは悪いで、悪いはいい。物の見方はその時々ということを、
集約した言葉のようですね。